公開日:2020年2月28日 最終更新日:2020年2月28日
「自分の子どもが他の子どもと違うように感じる、もしかして発達障害?」と感じた親は、「誰に相談していいのかわからない」と不安は抱くに違いありません。また、子ども自身も「がんばってもできなかった」と、自信を失っているのかもしれません。そんなときに子どもと親に寄り添い、認めてくれる「先生」がいれば心強い。
誤解していない?発達障害は、得意なことと不得意なことの凸凹が激しいだけ
「「発達障害」という言葉は、日本でもずいぶん普通に聞かれるようになってきました。ですがその多くは、ネガティブなイメージがつきまとっているのではないかと思います。それは「障害」という言葉の持つ意味が、日本語ではマイナスイメージが強いからでしょう」
現在、甲南女子大学子ども学科准教授、英語教育ユニバーサルデザイン研究学会会長であり、「子どもの発達障害」や「学習障害のある子どもへの読み書き指導」というテーマで、多数の講演や出版をされている村上加代子先生は、そうおっしゃいます。
「発達障害」という言葉をよく耳にするようになったからこそ、「もし、自分の子どもが発達障害だったら…」という気持ちで発達障害を知ることが、先入観をもたない秘訣です。まずは、発達障害について「知る」ことから始めましょう。
「発達障害といっても様々な状態があり、不得意なことだけでなく、得意なことが人よりも飛び抜けているなど、デコボコが激しいことでも知られています。
たとえば、わたしが主に 関わっている学習障害は、英語では同じ“LD”と表記されても下記のように分かれます。
- Learning Deficit(学習症)
- Learning Difficulties(学習困難)
- Learning Differences (学び方の違い)
それぞれ受ける印象は全くちがうのではないでしょうか。
特に学校の先生や保護者には、「この子は障害がある」と感じるような言葉よりも、「学び方を変える必要がある子」と受け止められるdifferencesという語のほうが、今後の手立てについてなど前向きに考えやすいものです。
実際、発達障害は、「その人の障害ではなく、違いなのだ」という表現もよく用いられます。
誤解されることも多いですが、LDには知的な遅れはありません。学校に入学するまでは、みんなと同じか、それ以上の理解力や知識量があり、お話しも上手なことがあります。
ただ、文字での学習が始まると途端に読み書きや算数などにつまずくことが多いようです。それは脳の認知処理が関係しており、本人の努力ではどうしようもないものです。
「がんばればなんとかなる」といった根性論では効果がなく、「がんばってもできなかった」と親子ともに自信を失います。勉強への意欲が下がるだけでなく、不登校につながることもあります。
その子がもっている潜在的な力が正しく評価されないため、「わかってもらえない」と自己肯定感も下がりがちです」と、村上先生はおっしゃいます。
世界的に活躍しているディスレクシアの著名人はたくさんいる!
実際にディスレクシアのある著名人には、世界的に活躍をしている人もたくさんいます。
カミングアウトしている中でも有名なのはトム・クルーズ、キアヌ・リーブス、オーランド・ブルームなどの俳優陣のほか、映画監督のスティーブン・スピルバーグ、古生物学者のジャック・ホーナー(ジュラシックパークに出てくる博士のモデルとなった人)もディスレクシアを公表しています。
- 大変だったけれども、寄り添い自分を認めてくれる理解者がいたこと
- 自分の得意を伸ばして仕事にすることができたこと
上記は、こうした人に共通する意見です。
「日本では、まだまだ理解が低いですが、少しずつでも「どのように教えたら良いだろうか」と考え、実行する学校の先生が増えているように感じています」ーー村上先生はこう続けます。
あきらめないで!発達障害のある子どもへの英語指導現場から伝えたいこと
「私は10年以上前から発達障害のある子どもへの英語指導を始めました。
当初、「学習障害の子どもを対象とした英語指導」については、研究としてもほとんど未開拓分野でした。
いまでこそ、少しずつフォニックスなどの効果が証明されてきましたが、いまでも「LDがあれば英語はあきらめなさい!絶対無理!」といわれている科目であることに違いありません。
私は「LDのある子どもが、本当に英語学習が無理なのか?」ということにとても関心があり、様々な調査や研究から始め、いろいろなことがわかってきました。
たとえば、「言語によってディスレクシアが人口に現れる確率が違う」ことなどは、あまり知られていません。ですが、これは実は、どの言語を学ぶ上でもとても重要なことです。
つまり、言語によって読み書き習得の難易度や、つまずく人も違うということがわかってきているのです」
世界の言語の中でも、とくに読み書きがむずかしい言語が「英語」
「たとえば日本語のかな文字では読み書き困難は数パーセントしか現れないけれど、漢字では7%と急につまずく割合が増えます。
英語に関しては、世界の言語のなかでもとくに読み書きがむずかしく、ディスレクシアが人口の10%〜20%ともいわれるほどです。
私たちは、そんなむずかしい「英語」を習っているのですから、LDがなくても、たくさんの子どもが英語の読み書きについていけなくなります。
つまずきの原因は子どもにあるのではなくて、「これほど習得がむずかしい言語を教えているのだ」という意識がまったくない指導側に責任があります。
指導が変われば、つまずきはもっと減りますし、LDがあっても英語の習得はできます」と、村上先生はおっしゃいます。
「もしかして、うちの子は発達障害?」と心配なら、目の前の成績よりも大切なことがある
「「もしかして、うちの子は発達障害?」ということを心配されているのでしたら、目の前の成績を上げるよりも、もっと大切なことがあります。
長年、子どもたちと保護者を見てきて、いま私が感じていること、保護者に大切にして欲しいと思うことをお伝えします」と、村上先生。
- 成績に振り回されない(子どもを追いつめない)
- 子どもの笑顔が健康のバロメーターであり、親の笑顔は子どもの安心につながる
- 「どういう支援が受けられますか」と、具体的に学校とは話し合う
- 子どものために我慢するのではなく、子どものための話し合いを前向きに重ねることが重要(子どもの困り感を解決するのは、モンスターペアレントではない)
これらは、村上先生が感じている「保護者に大切にして欲しいこと」です。
「いまの日本は、「いろいろ違って、それぞれ良い」」と口ではいうものの、「違う」ことへの拒否感も強くなってきているのではないか、コミュニケーションでのゆとりがなくなってきているのではないか、と肌で感じています。
なぜ子どもがつまずくのか、どのようにつまずくのか、どのような指導法があるのか、という知識を指導者側がほとんど知らないために、子どもの努力不足のせいにしたり、障害のせいにされることもあります。まず私は、この部分を変えていきたいと思っています。
そうした中で、子どもたちも、先生も、そして保護者も、みんなが幸せになれるような形や方法を教育というフィールドで実現していきたいと思っています」
村上先生のような、寄り添い認めてくれる理解者がいれば、子どもが将来、自分の得意を伸ばして仕事にすることができるかもしれません。
【取材協力】
英語教育ユニバーサルデザイン研究学会会長
甲南女子大学子ども学科准教授 村上加代子さん
主に学習障害のある子どもへの英語指導/研究を行う。“あきらめない英語教育”を目指す。著書「目指せ!英語のユニバーサルデザイン授業」、「読み書きの苦手な子どものための英単語指導ワークブック」ほか講演・著書多数。
「読み書きが苦手な子どものための英単語指導ワーク」
取材・文 / エルシーラボ編集部